『偶像に口紅を 第一章』振り返りと解説

お久しぶりです、風上です。

 

ミリオンライブ関連で二次創作か何か書きたいと思ったのですが最近書くネタがないので、過去作であり自分の中で一番時間をかけた作品でもある『偶像に口紅を』についてメモなどを頼りに作中には書けなかったことなどの振り返りや解説をしていきたいと思います。

 

この記事は、pixivに投稿されている『偶像に口紅を』(https://www.pixiv.net/novel/series/965962)についての記事となります。ニコニコ動画に投稿されている同名の作品とは異なりますのでご容赦ください

 

解説記事のため、当該作品をまだお読みでない方がいれば、合計21000字程になりますが、是非お読みください。

www.pixiv.net

 

以下本文

 

作品について

この『偶像に口紅を』は、筒井康隆氏の小説『残像に口紅を』をオマージュ及び、アイドルマスターミリオンライブ!シアターデイズの二次創作作品。

このオマージュ元の『残像に口紅を』はリポグラムという手法を用いた実験的な小説で、簡単に言えば、話が進むにつれて文章に使用できる文字が減っていくという特徴をもつ。また、このリポグラムに関連して、その名前に消滅した文字が用いられるもの(文章に記述できなくなったもの)は実際にその存在も消滅する、という内容になっていて、最後にはすべての音が消滅し、世界の終焉を以て話が終わる(ネタバレだが、この小説の本懐はここではないと思うので説明のため書いた)。

私の『偶像に口紅を』もこのコンセプトをオマージュし、アイドルたちが音や物が消えていく異変に巻き込まれていくという内容の小説とした。両原作を知っている人はそう多くはないので、どちらか片方、さらには両方とも知らない方でも読めるようになっていれば幸いだ。

 

以降は本記事の主題である『偶像に口紅を』について記述していく。

 

当作品の視点主人公は田中琴葉。リポグラムで消去していく文字の順は決まっていた(『残像に口紅を』の消去順と同じ)ので、ミリオンライブに登場するアイドルがどのタイミングで消滅してしまうか検証したときに、最後のほうで消滅するアイドルということで選んだ。

作品では田中琴葉が消失の後、中谷育もモノローグとともに消失し、話が終了する。作品のあとがきにも書いたが、その時使用できる文字は次の通り。

 

いうおかがくこさしただつてなにのはれわん

 

作品後半でも文章を成立させるため、日本語で使われやすい音が残されてはいるが、使える言葉は相当限られる。原作もさすがに話が進むにつれ文章が短くなってゆき、体言止めが多くなっていくが、前半は文字が消えていることを感じさせないほどのきれいな文章が長く続き、原作小説は文庫で300ページほどある。どうなっているんだ。

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実際に使用したメモ、執筆時は一文一文この表と照らし合わせ、誤りがないか確認した

 

ともあれこのリポグラムでの最大の難点はその文章作りと、それに加えリポグラムに連動した話作りだ。後段では本文の内容について、消滅した音による影響について解説する。

 

リポグラムの細かいルールについては以下に引用しておく

・濁音、半濁音はそれぞれ清音とは別物とみなす。
・拗音、促音はもとの清音と同一とみなす。
・長音(音引き)は直前の音の母音と同一とみなす。
・「お」と「を」、「じ」と「ぢ」、「ず」と「づ」はそれぞれ同一とみなす。
・「wa」と発音する助詞の「は」、「e」と発音する助詞の「へ」はそれぞれ「わ」、「え」と見なす。
・「ヴ」は原語の発音の範疇であればバ行のいずれとも別として扱う。

(『残像に口紅を』より)

 

本文解説

 

野々原ののはらあかね「茜ちゃんプリンたべたーーいっ!」
横山よこやま奈緒なお「私はなんか適当に菓子パンを頼みます」
七尾ななお百合子ゆりこ「私は水をお願い! 杏奈ちゃんは?」
望月もちづき杏奈あんな「杏奈は……リンゴジュース……」

序章【慌ただしい日常】は、リポグラムの制約がない、何も消失していない状態から開始する。副題の通り、朝の765プロライブ劇場での慌ただしい日常のシーンで、特に解説することはないだろうが、ここで登場した人物やお使いの内容は後章で意味を成してくる

 

「いや、その横のゲーム機を誰も触ってへんのはなんでかなと思って」
「え? ……ええっ?! なんで?! えっ、ど、どうしよう」
「えっ、ど、どないしたん?」

 

 多人数用の椅子でゲームをしている百合子ちゃんの横にはゲームの画面がついたまま放置されたゲーム機が置かれていた。

「あ」が消滅したことで、百合子とゲームをしていた望月杏奈が消失、この段階で、765プロ所属のアイドル52人のうち10人が消えてしまっている。

 

「えっと、とりあえず頼まれてた水ね、奈緒ちゃんのパンは……これでよかったかな」
「はい!」
「サンキューな!」

 そのもおつかいで頼まれたものを届けて回って、レジ袋の中に残ったのは、私の朝食のメロンパンと、リンゴジュースとプリンとチョコレート。

「なんでこれ買ったんだっけ……?」

購入したものからはアンパンが消え、杏奈のリンゴジュースと茜のプリン、文章には書いていなかったがエミリー・スチュアートのチョコレートが余った。主人公の琴葉に違和感を告げる。

 

「私の、私のご飯が突然いなくなった!」

「ぱ」が消失、これを強調するものとしてやはり一番わかりやすいのは「パン」だろう。

 

「……えっ?!」
「は?!」

 一瞬だった、今まで目の前にいた少女は瞬きをする間もなく姿を消した。奈緒ちゃんもさっきまで『その子がいた』空間を見つめたまま固まっていた。その横では大きな犬が吠えている。多分今しがた消えてしまった少女の犬だ。もう誰がそこにいたのかも思い出すことができない。犬の驚いたような鳴き声だけが部屋に響いている。

「せ」が消失し、今しがた登場したばかりの箱崎星梨花が目の前で消えることで、異変の発生に気づく。当然消えたものは名前を呼べないので、おぼろげに記述するほかない。

 

「この部屋…… こんなに静かだったっけ?」

 集中していたから周りの音が耳に入っていなかったのだろうか、いや、さっきまで気が散るような音が断続的に聞こえていたような気がする。もしかしたらまた何かが消えてしまったのかもしれない。

「ぬ」の消失、原作でも犬の吠える声が聞こえなくなる描写があり、それをオマージュ。犬にはジュニオールという名があったが、飼い主の星梨花が消えてしまったことで、その名を忘却してしまったとした。

 目に入ったのは今朝確認したホワイトボードの予定表だ。さっき見た時と比べて文字が減っているのは明白。既に十数人分の名前が消失してしまっている。記憶の断片から、頑張って消えてしまった仲間につながるヒントを探した。
 微かだがこんな人が居た気がする。こまめにみんなのスケジュールを管理してた、いつも眼鏡をかけていた人…… よく貴重だお宝だと言って仲間の写真を撮っていた子…… 真ちゃんに負けないくらいダンスが上手かった子…… それとこのボードにはもっとカタカナが書かれていたはずだ……ロコちゃんだけじゃなくて…… みんな消えてしまったのだろうか、名前も顔も出てこない。 ……え? というかそもそも

「私たち、何の集団なんだったっけ?」

登場させられなかったが消失してしまったアイドルについて触れている。

順に秋月律子、松田亜利沙、舞浜歩、ジュリアにエミリースチュアートだ。

そしてここで「アイドル」という概念も消失してしまったことに触れ、ここから先はさらに消えてしまったものに焦点を当てていく。

 

 百合子ちゃんは一枚のCDを差し出した。ジャケットの写真には水着を着た百合子ちゃん、紬ちゃん、未来ちゃん、そして桃子ちゃんの4人が映っている。

「このCDは……」
「私たち、もしかしたら『歌手』だったんじゃないかなって思うんです」

このCDは THE IDOLM@STER MILLION LIVE! M@STER SPARKLE 01 です

www.lantis.jp

「ふ」が消失したため、豊川風花が消え、ジャケットからもいなくなってしまった。

「未来ちゃんの曲がない……?」

 ソロ曲を収録したCDだった。しかし、ジャケットに映っている未来ちゃんのソロ曲がない。そのかわりに、『祈りの羽根』という歌い手のない曲が収録されていた。きっと消えてしまったのだろう。5トラック目に置かれていたはずのその曲は、タイトルもメロディもわからない。

消えた曲は「未来系ドリーマー」、「あ」の消失が外来語に多大なダメージを及ぼしています。

 

第一章はここまで、この後消えていく音の中で、起きている異変について調べていく流れで話が進んでいく。

 

 

区切りがいいのでいったんここまでとします。時間気力に余裕があれば今後続きも書きたいです。

読んでいただきありがとうございました。